リーマン・ショックから、はや9か月。
2009年の6月になっていた。
あれから、社内の人員整理はすすめられ、
事務所の中も、地方営業所も、どこだろうが関係ない。
根こそぎリストラされていた。
俺はというと・・・。
まだ、ぽちぽちやっていた。
親父が死んで1年半が経とうとしていた。
ぽちぽちやりながら、俺は思っていた。
このままでいいのだろうか。
ぽちぽちやっていれば、いいじゃないか。
コネ入社だし。
首の皮一枚つながってりゃいいじゃないか。
イージーに、イージーに、なるべく考えないようにしていたはずなのに、
お世話になった人から切られていく。
申し訳なさ過ぎて、いつの間にか、自分の心はすり減っていた。
それと同時に、いつ切られたって、おかしくないんじゃないか。
いくらコネ入社とはいえ、積極的に赤を出していたんだ。
さすがに、まともではない経営者だって気付くころだ。
そう思いながらも、気づけば11月になっていた。
ここに至るまでに、仕事のパートナーが一人、二人といなくなっている。
それは、退職だったり、配置転換だったり、様々なんだけど、
気付けば「同僚」と呼べる人間は、一人もおらず、
愛想のないバイト君と二人でぽちぽち働くようになっていた。
一人ではないものの、バイト君はバイト君。
10時に来て、17時には帰る。
たまに昼飯をおごることもあったが、「会社にいていいんだろうか、という話はできなかった。
(ちなみに、バイト君はいっこ上なので、正確にはバイトさん)
そして12月のある日、またしても事件が起こる。
上司が車を買った。
それも、中古で10,000千円を超える、高級車だ。
(鈴木雅之・・・)
上司が車を買うくらい、どうってことないじゃないか?
と、思うかもしれない。
だがこの上司は、経営者一族だ。
リストラの陣頭指揮をとっていた。
あれだけリストラを進めていたんだ。 経営状態をよくしようとしていたのでは?
そのお金はどこから出てきたんだろう?
まさか、会社から・・・?
いや、でも、まさか、だが、もしかして・・・
一度土から出た、疑惑の目は、日の光もなしに、ぐんぐん育つ。
俺は、思わず聞いた。
「なんでこの時期に買ったのか?」
曰く、
「我慢できなかった。」
唖然とした。
確かに、個人の金(?)で車を買おうが何しようが、それは勝手だ。
確かに、人を切るということは、精神をすり減らす仕事かもしれない。
ん?人を切る?ちょっとまて、
リストラ、実際にやってたのは、上司じゃないだろ。
「すみません」「申し訳ない」と、(表面上は)言葉を重ねていた(かもしれない)のは、
上司が雇った別の部署の人間じゃないか。
あいつ(上司)、直接手を下してねぇ、手汚してねぇんじゃねぇか・・・?
そう思った瞬間、疑惑の花が開花した。
この上司を、そして会社を信用することができなくなった。
俺は――――
もう、この会社やめよう。
そう思った。 2009年12月になっていた。
退職まであと 3か月